円滑な交通のために

実質不動状態だったCBR250RをGSX-S1000GTを買いかえたので、このところ久々にバイクであちこち出かけている。四季折々の空気を感じながら出かける楽しさはバイク特有のものではないかと思う。自転車だとペダルを漕ぐのが大変でそちらにリソースが持っていかれてしまうし、車はたとえオープンカーであっても真正面から風を受けることはないからね。

それにしても久しぶりに公道で運転すると、日本の交通事情の酷さが目につく。これはドライバーの質の低さと道路行政の悪さの両方が原因だろう。まず道路だが、高速道路や幹線道路の作りが悪い。まず広域の幹線道路を作るときに既存の交通量のみを参照して道路の車線数を決めるのは絶対にやめるべきだ。広域間を結節する道路を新規に作れば、既存の交通が移行するだけでなくもっと広い目で見た交通の流れも変化する。

道路事情

圏央道の海老名JCT~鶴ヶ島JCT間がいい例だ。東名高速・新東名高速・中央道・関越道という大動脈を都心を回避して結節する圏央道を片側2車線で建設してしまったため、慢性的に渋滞してしまっている。絶対にこの区間は3車線で建設すべきだった。専用部2車線の外環も埼玉区間しかなかった頃はよかったが、千葉区間が開通し本来の役目を多少なりとも果たすようになってからは渋滞が目に付くようになった。大深度地下トンネルの工事で地上に影響が出たため開通の目途が立たなくなったが、事業中の大泉JCT~東名JCTが開通した場合は酷いことになるのが目に見えている。

圏央道、外環千葉区間、C2山手トンネルの開業により首都高速の混雑はかなり改善されたが、そもそも以前の首都高速の混雑は相当異常な状態であって、現状でも改善が必要な部類だろう。S2埼玉新都心線やK7横浜北西線など、部分部分で建設されている核都市広域幹線道路が3環状を補完可能な唯一の計画だと思われるが、現在検討が始まっているのは埼玉新都心線の東北道への延伸と千葉北西連絡道路のみで、横浜青葉JCT~与野JCT、東北道~千葉北西連絡道路、千葉北西連絡道路~千葉市の区間に具体的な構想は存在しない。

日本が衰退国家になってしまったのはもはや疑いようがないが、インフラが充実した都市部への人口集中は止まる見込みがなく、主要都市内部と大都市圏の主要都市間の道路の必要性は当面変わらないはずだ。そしてこれは土地収用の問題などでこれまで整備が遅れてきた部分でもある。戦後に道路が作られ高度成長期に改良されたところまではよかったが、その後は道路整備が年々困難になり交通量の爆発的な増大に対し道路が貧弱になってしまった。その結果市街地の狭い生活道路に大量の自動車が流入し渋滞と交通事故を引き起こしている。こうした状況を終わらせるために道路整備を進めていってほしい。

ドライバー事情

そして貧弱な道路事情をさらに悪化させているのが我が国のドライバーだ。我が国のドライバーの質の低さは三車線の区間の高速道路を走れば一目でわかる。第一走行車線であるはずの一番左の車線がガラガラで、真ん中の第二走行車線と追い越し車線にばかり車が走っているのだ。そして一様に車間が狭く先行車に近づくとブレーキを踏み、距離が開けば加速してまたブレーキを踏み……というありさまである。そして流れを悪くする。酷いありさまだ。

まず第一走行車線が空いているのなら、第二走行車線を走る車はそちらを走らなければならない。ずっと第二走行車線を走っている車のドライバーは100km/hで走っているのだからいいだろうという発想のようだが、それは間違っている。第一走行車線にだれも走っていなくて本来追い越し車線であるべき車線がより速い速度で流れているのなら、第二走行車線にいるあなたはその場で一番遅いのだから第一走行車線に移らなければならない。そうでなければ追い越し車線を走っている車は走行車線に戻ることができないではないか。

通行帯違反の取り締まりが行われるようになり追い越し車線を延々と走るのは違反であるということが知られるようになったが、通行帯違反について誤って理解しているドライバーが大半だ。よく聞く誤った理解が「2km以上追い越し車線を走ると通行帯違反となる」である。まずどれくらい距離を走ったのかというのは全く関係ない。追い越し車線は文字通り追い越しのための通行帯であって、距離が1kmだろうが2kmだろうが漫然と走ってはいけない。追い越しを終えたら、つまり隣の走行車線の車列が切れた時点で速やかに走行車線に戻らなければならない。2kmというのは「常識的に考えて2kmも走ればどこかでは走行車線に戻れるだろう」ということで取り締まりの目安となっているだけである。警官に「○kmしか走っていないのになぜだ、じゃあ何km走ったら違反なんだ」などと食って掛かるドライバーまでいるようだが、法規を理解せずに運転していることを公言しているようなもので文章を読んだだけのこちらが赤面してしまう。

また、一般道や都市高速には追い越し車線がない、という誤った理解も広く知られている。通行帯について定めている道路交通法第二十条を参照しよう。

(車両通行帯)第二十条 車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。ただし、自動車(小型特殊自動車及び道路標識等によつて指定された自動車を除く。)は、当該道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)に三以上の車両通行帯が設けられているときは、政令で定めるところにより、その速度に応じ、その最も右側の車両通行帯以外の車両通行帯を通行することができる。2 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。3 車両は、追越しをするとき、第二十五条第一項若しくは第二項、第三十四条第一項から第五項まで若しくは第三十五条の二の規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。

一般道や都市高速には追い越し車線がない、などとはどこにも書かれていない。一般道には平面交差があるので右折などで右に寄る必要があるため、都市高速には右車線に出口などがあるために一番右の車線を追い越し車線として使用することができないというだけである。これを読めば都市高速でも首都高速湾岸線などで一番右の車線を漫然と走っていては車両通行帯違反となることがわかるだろう。また、三車線ある高速道路で漫然と中央の車線を走ることが法令違反となることもわかるだろう。

こうした誤った理解が広く共有されていることは単に知識として法令を知らないだけでなく「日本のドライバーは道路交通を円滑かつ安全なものにしようという意識を持たずに漫然と運転している」ことの証左である。まず最低限目端が利いて「道路交通を円滑かつ安全なものにしよう」という意識があるドライバーなら、左の走行車線がガラガラで右の追い越し車線が混んで事実上通行帯のような状態になってしまっていることに気づいたら左の車線に移るだろう。安全に運転しようという意識があれば、車間を、特に前方がよく見えないトラックの後ろでは、ことさらに詰めたりしないだろう。あるいは事故車や故障車が路側帯に停まっていたらドライバーが路上にいるかもしれないことに思い至るだろう。

今日も東名高速で事故を起こした車の乗員が路上に出たところを轢かれる事故があった。この手の事故で必ずと言っていいほどみられるのが『自動車専用道路上に人間がいるとは思わない、轢いても無答責とされるべき』という、本当に、本当に酷い意見だ。自動車運転免許を受けているとは到底思えない発言だが、これが現実の日本のドライバーの考えだ。自動車専用道路であっても事故や故障で車が止まり車外に出なければいけない状況というのは必ず起きる。事故や故障の状況次第では路側帯まで行くことができずに本線上で停止してしまう可能性だって当然ある。高速道路であっても、いや速度が一般道よりも速い高速道路だからこそ、こうした状況を想定しきちんと周りをみて運転しなければならない。中央分離帯からの飛び出しや陸橋からの飛び降りとは違って、そこに故障車・事故車があるのだから人がいることを予見できるはずだ。

高速道路から離れて市街地に目を向けると、歩道がなく見通しのよくない、いわゆる市街地の抜け道でスピードをだす車の多さに嘆くことになる。こうした車を生み出してしまっているのは前述の道路事情の悪さなのだが、それにしてもそういった道路を40km/hや50km/hで走って危ないとは思わないのだろうか。塀などで見通しの悪い交差点の付近では制限速度の30km/hでさえ速すぎると思うのだけど……

こうしたドライバーに共通しているのは「周囲を見ていない」「法規を知らない」「円滑かつ安全に走行しようと考えていない」ことだ。大変嘆かわしいが、こうしたドライバーが多くいるのが我が国の現実である。見ざる・知らざる・考えざるの三猿たちが日本の公道上でハンドルを握っている以上、道路の建設が進んだとしても交通状況の悪さの改善は限定的なのかもしれない。

Hermitage astoria*

ツイッターでは書ききれないことなど、まとまった内容を書きます。

0コメント

  • 1000 / 1000