ロシアがウクライナへの侵略を開始して2週間が経った。現在でもキエフ(キエフ)とハリコフ(ハルキウ)は陥落していない。南部ではヘルソンが3/2に陥落し、アゾフ海沿岸の港湾都市マリウポリは完全に包囲され市街地への無差別砲撃が行われている。ロシア軍は開戦前の評判とは裏腹にロシア経済の停滞を反映して次のような醜態を晒している。
- 精密誘導兵器の在庫が不足していたことにより早々に市街地への攻撃に自由落下爆弾やロケットを使用せざるを得なくなる
- 兵站が失敗し前線に供給される燃料や食糧が不足し進行速度が鈍る
- 練度の不足によりSEAD作戦を実施することがができず、ウクライナの防空システムが生きている中で航空作戦を行わざるを得なくなり多数の損害を受けている
- 暗号化通信が使用不能で一般の通信回線を使用し高級将校が位置を特定され狙撃を受ける
ロシア軍は現在も再編を進めており、遅かれ早かれキエフ(キーウ)への本格的な攻撃が開始されるとみられる。そう遠くないうちにマリウポリが陥落するとみられているが、それ以降はマリウポリを包囲している兵力が使用可能になるため、現在ウクライナ東部で防衛しているウクライナ軍は包囲される可能性がある。北部もキエフ(キーウ)への攻勢は停滞しているものの、スミィからキエフ(キーウ)へ伸びている攻撃軸によりチェルニヒウは後方を遮断される可能性が高い。
基礎体力の差で戦術的な勝利を重ねることはできるだろうが、ウクライナ軍民の頑強な抵抗もロシア軍の弱さにもプーチンには誤算だっただろう。開戦前の演説でも核戦力に比べ通常戦力は「多少は近代化できた」といったような言い方でそれほど信頼を置いていないような口ぶりに思えた。今回のロシア軍の体たらくをみたプーチンは今後ますます核戦力に重きを置くようになるのではないか。ロシアがエスカレーション抑止戦略に基づいて核兵器を使用したとき、米露は低出力核を1発づつやりあうだけで本当に止まるのか。ザポリージャ原発への攻撃を見てもロシア軍は原子力災害についてあまり気にしているようには思えない。これが統制不足によるものなのか中枢の考え方なのかはわからないが、いずれにせよ核の恐怖は冷戦終結後最も強くなっているように感じる。
それと、ウクライナとロシアの国民形成について興味深い文章がツイッターで流れてきたので紹介したい。北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センターの伊藤孝之名誉教授が2014年6月9日に公開した「ウクライナ―国民形成なき国民国家」である。これは2014年のクリミア併合の際にウクライナ側の抵抗が極めて微弱だったことをみた著者が『西側諸国と旧ソ連諸国では国家の性質が異なっているのではないか』と疑問を抱き、考察したものである。ここでは民族的ウクライナ人がウクライナ国民になったわけではなくウクライナ独立時に偶々ウクライナにいた人々がウクライナ国民になったこと、そして独立から20年以上経ってもウクライナの国民形成が進まなかったことについて考察されている。そして最後にクリミア併合によってウクライナで国民形成が進みつつあると結んでいるが、その後のドンバスでの紛争を経て今回の全面侵攻に至り、ウクライナの国民形成が急速に進んだことは間違いない。そしてそのことをウクライナの国民形成を進めた張本人であるクレムリンが知らなかったであろうことはとてつもない皮肉である。そしてロシアの国民形成についても触れているが、これについても興味深い考察がされている。ロシアの国民意識についての結論部分を引用する。
『ロシア人あるいはロシア語話者は国民意識が弱いという点で他の旧ソ連諸国と共通するものをもっているが、帝国意識が強いという点では大いに異なっている。人々は国民国家としてのロシアよりも帝国としてのロシアあるいはソ連への帰属意識をもっている。今日までディアスポラのロシア人は国民意識に基づいて結集するということがなかったが、帝国の再建というスローガンのもとでは結集することができるかも知れない。』
世界最強の核兵器大国ロシア、ユーラシアに冠たる大国ロシア、スラヴ民族諸国の盟主たる大国ロシア。確かにプーチンは様々な局面で強国であることを殊更にアピールしてきた。そしてそれは人々の求心力を保つために必要だったために行っていたのかもしれない。だが米国という世界秩序の中心にいる超大国が未だ健在である以上、帝国でなければ成立しない国家はいずれ破局してしまう。ロシアはまさに今その局面に至ってしまったのかもしれない。
西側諸国が結束して強力な経済制裁を実施し、これまで態度を明らかにしてこなかったマクドナルドやコカコーラ、スターバックス、そしてユニクロまでもがロシアでの事業停止を表明した。ロシア経済の見通しは非常に暗く国債の格付けは既にジャンクとなりルーブルは暴落している。外貨建ての債務をルーブルで償還を可能にしたことからデフォルトが確実視され、ロシア経済は致命的なダメージを負いつつある。
プーチン政権の後がどうなるかはわからない。強権的なシロヴィキの体制がその後もしばらく続くかもしれない。願わくばロシア市民の自発的な運動により体制が崩壊することに期待したい。その後はロシアの民主化と国民形成をどう実施するかが重要になるだろう。ソ連崩壊後の混乱を経たことにより安定した国家運営を提供する強権的なプーチン体制が支持されてきたことを忘れてはならない。ソ連崩壊後にロシアも欧州の一員として迎え入れようとしながら結局は上手くいかなかった。今度は失敗してはならない。そしてロシアを自由主義陣営に迎え入れることができれば、もはや中国も今のような好き勝手はできなくなるだろう。そのときは核軍縮も可能になるだろうし、米国が衰退していったとしても長期の平和を維持していくことができるのではないだろうか。そうなることを願っている。
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