我が国の少子化対策の基本は「未婚化対策」である。
子供の出生数は「子供を設ける男女の割合」と「子供を設ける男女の産み育てた人数」の掛け算で決まる。
わが国では依然として婚外出生が少ないため「子供を設ける男女の割合」は「1-未婚率」とみなすことができる。「子供を設ける男女の産み育てた人数」は完結出生児数だ。
内閣府の少子化社会対策白書(令和4年版)によれば、完結出生児数は1940年から1970年にかけて急減し、その後2002年まで2.2前後を維持している。2002年から再び減少トレンドとなり1010年には1.96、2015年には1.94まで下がったが比較的緩やかなトレンドと言える。
一方未婚率は上昇傾向で、30代前半女性の未婚率は1985年に5%を超えてから2010年に35%近くになるまで急上昇を続け、2020年には35.3%に達している。
我が国の合計特殊出生率は1971年から1974年の第二次ベビーブームを最後に2を割り込み、その後2005年の1.26を底にやや回復し2015年には1.45となったが、その後再び減少に転じ2020年には1.33となっている。
こうした状況を踏まえデータを解析すると未婚率の上昇のほうが完結出生児数の低下よりも強い人口減少の要因であるといえる。
ところがこれに異を唱えた方がいる。法政大学教授の小黒一正氏だ。なんと未婚化よりも完結出生児数の低下のほうが問題だというのだ。
小黒氏が執筆したダイヤモンドオンラインの記事「フィンランドの出生率は日本とほぼ同水準まで低下、政府は完結出生児数に照準を」を参照しよう。
では、出生率を引き上げるヒントはないのか。日本では婚外子の割合は約2%で、出産する女性のほとんどは結婚している。このため、大ざっぱな議論では、出生率は、「婚姻率(=1-生涯未婚率)」と「完結出生児数(夫婦の最終的な平均出生子ども数)」の掛け算におおむね一致する。この式から、完結出生児数は70年代から現在まで約2で(21年は1.9)、現在の生涯未婚率が約32%なので、出生率は約1.3(=(1-0.32)×1.9)となる。
興味深いことに、1940年も婚外子割合は約4%しかない。だが、当時の出生率は4であり、完結出生児数は4.27もあった。先ほどの式から逆算すると、1940年の生涯未婚率は約6%となる。
1940年から2020年までの出生率の低下を要因分解すると、生涯未婚率の上昇要因(婚姻率の低下要因)は約33%、完結出生児数の減少要因は約67%だ。後者の方が圧倒的に大きい。
前述のように日本の人口動態は1970年代を境にトレンドが大きく変化しているにも関わらず、1940年から2020年までのデータを一緒くたにして計算しているのだ。
繰り返しになるが、完結出生児数の低下傾向は1970年までにほぼ終了している。そして1970年まで日本の人口は増加傾向にあったのだから、完結出生児数の低下は人口増加の鈍化には効いたのは間違いない。が、人口減少が始まった1975年頃から2002年までは完結出生児数はほぼ横ばいなのだから、人口減少の要素について解析したいのであれば1975年以降のデータを使って計算しなければならない。きわめて初歩的なデータの取り扱いの誤りと言わざるを得ないだろう。
小黒氏の本業は経済学者とのことだが、経済学者はこの手の社会的なデータの取り扱いのプロフェッショナルではないのか。雑誌の記事など片手間で書いてもいいだろうと思って専門外のことを碌に調べずにいい加減な記事を書いたのだろうか。理由については本人のみぞ知ることだが、なんにせよ残念な限りだ。
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