『《潜入撮》中国「秘密警察」日本での非合法活動』(安田峰俊, 文藝春秋2023年7月号)を読んだ。この記事は先週配信されたものだが、このテーマの対談動画『中国『秘密警察』派出所に突撃してきた!』(高口康太×安田峰俊, 中国さっぱりわからん!第6回)が配信されていたため、こちらを見るときに読もうと思っているうちに1週間が過ぎてしまった。
さて、記事および対談の感想だが、安田さんが記事の結びで書いている通りの印象を受けた。
従来、日本では中国の外交や対外工作を「したたか」であるとみなす先入観が強く存在してきた。
(中略)
現実の中国の工作活動は、むしろ極度に短絡的で垢抜けず、周囲にもたらす影響を考えない。緻密な策を練るよりも、無尽蔵の物量とマンパワーで対象を蹂躙するような、荒っぽく直線的な動きが目立つ。
しかし、こうした予測可能性が欠落した行動をとる「雑」な国家は、合理的に考え抜いた謀略を仕掛ける「したたか」な国家よりも、他国にとってはずっと大きな脅威だろう。
自国の体制内だけで通用する論理に閉じこもり、国際的信頼を毀損しかねない行為をも場当たり的におこなう大国は、いつか政治や軍事で破滅的な意思決定を下す危険がある。
中国が日本と世界に混乱を突きつける、恐るべき未来も近いのではないか。私は強い失望と懸念を抱いている。
対談の動画で「習近平体制になって中国国外にいる華人も中国共産党の威に服するべきと考えるようになった」という趣旨の発言が何度かなされた。今回問題視されている中国の地方公安局が「海外派出所」を所在国に断りなく設置したり、海外にいる反体制派に脅迫をしたり、外国籍の華人が中国にきた際にちょっとしたことで拘束したりするようになったのはこうした指導部の考え方の変化があるためではないかとのことだ。
このことを聞いて真っ先に思い出したのがロシアのことだった。まさに彼らは00年代にロンドンなど西欧諸国にいる亡命者を現地で暗殺したり、旧ソ連から独立した国々に「自治共和国」を設置したりと国際法よりも自らが正しいと思う価値観に従って好き放題した挙句、14年にクリミアを併合し、とうとう昨年ウクライナに全面侵攻を行うに至ったのだった。
領域国家という概念を大国の指導部が理解していないのは悲劇につながりかねない。このような状態が継続するならば、統制のきいていない末端が短絡的で過激なことをするうちに、後戻りのできない事態をしてしまうことは十分考えられるだろう。我が国の粗雑な末端こと関東軍がやってしまった満州事変のように(あれは本国とは違う方向を向いている過激分子だったが)。深い失望と強い懸念を抱いた。
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