コンパクトデジタルカメラと私

 コンパクトデジタルカメラ、いわゆるコンデジとの付き合いは長い。子供の頃から父の持つキヤノン、ソニー、パナソニック、ミノルタのコンデジと戯れていた。父はレンズ交換式デジタルカメラであるα-Sweet Digitalを持っていたが、当時はそれよりもコンデジをよく使用していたように思う。(後年までα-Sweet Digitalを持っていたことを知らなかった。それくらい使っているところを見た記憶がない)当時の家にはミノルタのDiMAGE AシリーズやソニーのFシリーズのような「コンパクト」とは到底言えないレンズ一体型デジタルカメラもあり、これらが父のメインカメラだった。父が再びレンズ交換式一眼カメラをよく使用するようになったのはα550を手にしてからだと思う。フィルムカメラの最晩年かつデジタルカメラの普及期であったゼロ年代前半という時代は、我が家における「レンズ交換式カメラ冬の時代」だったのだ。

 さて、父が再びレンズ交換式カメラを使用するようになると、メインユーザを失ったことによりコンデジの稼働率は低下した。最盛期には常に3~4台のコンデジが出番に備えてスタンバイしていたが、2010年ごろにはパナソニックのLUMIX FT1とソニーのCybershot HX5Vの2台体制になった。そして2012年にコンデジの決定版ともいえるカメラが登場したのだ。ソニーのCybershot RX100である。かくしてHX5Vはお役御免となり私の個人所有物となった。これが初めての「自分のカメラ」であった。しばらくHX5Vは私のメインカメラとなっていたが、HX5Vの時代はすぐに終わりを迎えた。1年後、大学入学を契機にα550も私の手元に来たのである。α550と「はじめてレンズ」シリーズの組み合わせによりHX5Vは一気に過去のものとなり、棚の片隅の置物と化していた。レンズ交換式カメラはその後もおさがりのα77、そして初めて自分で購入したα6500へと更新されていったが、コンデジは忘れ去られていた。しかし、2018年にRX100がとうとう私の手元に回ってきて状況が変わったのだった。

 長年の蛮用を経たRX100は、来た時すでにボロボロの状態だった。いたるところに落下痕があり、ストロボは上がらくなっていた。電源こそ入るが、光軸がずれているのかなんなのか、広角だとなんだか右半分で色が転ぶことがある。とりあえず工具でストロボに干渉しているフレームの歪みを何とかして、その後はHX5Vと同様に棚に安置されることになった。

 状況が変わったのは2019年のことだった。α6500からα7R IIIへとカメラを買い替え35mmフルサイズシステムを導入したことにより、レンズ交換式カメラを日々持ち歩くのが大変になった。そこで代わりにRX100を持ち歩くようになった。右側の解像や色が怪しいこともあるが、1型センサーの素性は悪くなく、現像すればまあまあ見られる絵を出力できた。外套のポケットに収まるので、冬場はカバンなしでも持ち歩くことができる。スキーや登山にも持っていけることが明らかになったので、このころからは再び酷使するようになった。

 そして2023年3月。蔵王の登山から帰ってくると、RX100は動かなくなっていた。発売されてから10年。この手の小型化に重点が置かれた電子機器としては十分すぎるほどの大往生だろう。

 さて、RX100との生活を経て、もはやコンデジは欠かせないものになってしまっていた。レンズ交換式カメラではパンケーキレンズでないとポケットには入らないが、私は望遠側も使うのでそれでは困るのだ。そこで次のような条件でコンデジを探した。

  • センサーサイズは1型以上であること
  • 広角側は換算28mm以下、望遠側は換算100mm以上の画角であること
  • 電源OFF時にシェルのポケットに収まること

しかし、探してみるとこれらの条件を満たすコンデジは少ないことに気づいた。さらに条件を満たすコンデジも、どれも登場からそれなりの年数が経過したものばかりだ。

  • ソニー Cybershot RX100VI (2018年)
  • ソニー Cybershot RX100VII (2019年)
  • キヤノン Powershot G5 X Mark II (2019年)
  • キヤノン Powershot G7 X Mark III (2019年)
  • パナソニック LUMIX TX2 (2018年)

コンデジに超望遠撮影を求めていなかったため高倍率優先のカメラのTX2は候補として真っ先に脱落。RX100VIはRX100VIIの下位互換であり、かつ実家にあることから候補から消した。G5 X Mark IIとG7 X Mark IIIは、G5 X Mark IIのほうがより望遠側にズームできること、動画はさほど撮らないこと、G7 X Mark IIIのほうがややコンパクトだがG5 X Mark IIのサイズでも問題なくポケットに収まることから、G7 X Mark IIIも候補から脱落した。最後、RX100VIIとG5 X Mark IIではRX100VIIのほうが明らかに優れたAFを持つ一方、G 5 X Mark IIのほうが最短撮影距離が近い。この二つを天秤にかけ、最終的にG5 X Mark IIを購入した。

 RX100の登場以来、スマートフォンのカメラよりも明らかに高画質だとして1型センサーをもつ高級コンデジが隆盛したが、スマートフォンの高画質化によりとうとう高級コンデジも終焉に向かっているようにみえる。PCでRAWデータを現像すると、スマートフォンのカメラモジュールのRAWとコンデジのRAWには明確な差があるのだが、JPEGをスマートフォンのディスプレイで比較する限りにおいては、最早画質の差は有意でないのだろう。コンデジは使い倒してなんぼだと思っているのでG5 X Mark IIを山やスキーにも持っていくが、そうした中でもできる限り長く使用するつもりだ。私にとって最後のコンデジになるのかもしれない。そう思いながら使用している。

Hermitage astoria*

Hermitage astoria*

ツイッターでは書ききれないことなど、まとまった内容を書きます。

0コメント

  • 1000 / 1000